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2022/07/13 17:40:53

開発者、ハンターになる

「おーい、何やっているんだ! さっさと登ってこい!」
急登の上から師匠に叱られる。とても92歳とは思えぬ速さで、ズンズン登っていく師匠の後ろ姿を、私は息も絶え絶えについて行くが、5,6歩登っては膝に手をやり、息を整えてからまた進むことの繰り返しだ。とうとう師匠の姿が見えなくなってしまった。
辺りは何の物音もしない。時折そよぐ冷たい風が、クマザサを撫でる音くらいだ。信州の奥山は、11月中旬も過ぎるとかなり冷え込むのだが、私は汗だくで、息を切らせながら道なき斜面をひたすら登っていった。
「パーン」
ふいに乾いた銃声が響き渡った。1発である。
急いで(いるつもりで)、必死に登っていくと、師匠が屈みこんでいる姿が見えてきた。近づいていくと、手元には雌鹿が横たわっていた。血抜きをして、これから腹を裂くところだ。
「やってみるか?」
私は自分の狩猟刀を取り出し、鹿の腹に当てる。が、とても切れるものではない。
「最初からは無理だな。よく見とけよ」
そう言うと、仰向けにした鹿の腹にナイフを当て、あっと言う間に切り裂いた。眼をそむけたくなるような光景だが、覚えなければならない。必死に目に焼き付けるように見入った。
内臓を取り出したあと、近くの小川まで引きずるのは私の仕事だ。肉は直ぐに冷やさなければ味が落ちる。
「絶対に無駄にするなよ。」
その時の師匠の言葉である。これは遊びではない、と痛感した。




こんにちは。第2ICTソリューション本部のN.Gです。
私はハンターで、鳥獣管理士でもあります。野山を駆け巡る開発者の姿を、少しだけ紹介したいと思います。

■ことの発端
私は大型犬を飼っているのですが、ある時、犬友達からエゾジカの肉を貰いました。犬は異常に興味を示し、調べたところミネラルも豊富で非常に健康的な肉であるとのこと。私は単純に「自分で獲って犬に食べさせたい」という欲求にかられました。
狩猟をするには、銃の免許と狩猟の免許が必要です。これが結構大変でした。いつかこの顛末は書きたいと思いますが、やっとの思いで銃の所持許可証と狩猟免許を取得しました。





■どうやって始まったのか
実はここからがまた大変でした。そもそも狩猟をやっている人が身近にいません。何処に行って何をしたら狩猟できるのか、銃砲店に聞いても手掛かりにはなりませんでした。
たまたま犬連れで泊まったペンションで、ジビエ料理が出てきました。聞くと、宿の主人自らハンターであるとのこと、しかも東京から移住してきたこと、と話はトントン拍子で進み、ご主人が所属するグループに加えて貰えることになりました。動いていると、縁に恵まれるものです。

■はじめての巻狩り
巻狩りとは、「勢子」という役割の人がシカやイノシシを追い、あらかじめ配置した「たつま」の元に追い立てて、やって来た獲物を「たつま」が撃つというグループで行う猟の事です。初めて参加したとき、私は「たつま」に入り、「絶対に動くなよ」と言われていたのですが、2時間、3時間もじっと立っていることは難しく、とんでも無く寒いので難儀しました。その後、場所を移動して、師匠について歩いた時の話は、冒頭に書いた内容です。
そもそも、朝から晩までひたすらPCに向かっているので、野山を駆け巡るには身体を鍛えなおさないといけません。ですので、目的のある筋トレを(軽めの)継続しています。



■知らないことだらけ
「登山は山を制覇することを目指すが、狩猟は山を共有することを目指す」とは、とあるマタギの言葉ですが、これは何回か経験を積むうちに実感できるようになりました。
便利な都会の生活に慣れ、消費することが生きがいのようになっていた自分にとって、狩猟で野山を巡るときは、自分の感覚が研ぎ澄まされていくのが分かります。音、臭い、木々の動き、土の感触、それらは野生動物たちが放つサインと共に、自分に様々な情報を投げかけてきます。山に入る毎に、それまでとは違う「何か」が伝わってきます。そして自分が山の一部であると実感します。今までは単なる知識を求めていましたが、野山を巡ると「感じ取る」ことが大切だと思い知られます。実践と知識が結びつく瞬間です。そして、自然の中では、実は自分は何も知らなかったのだ、とつくづく思い知らされました。

■ターニング・ポイント
何回か狩猟を経験したあと、やっと周囲の風景を冷静に見ることができるようになりました。そこで、ようやく驚くべき光景が広がっていることに気が付きました。
猟場周辺の山々が、シカ・イノシシの防護柵で囲われ、田畑は電気柵で要塞のように守られていました。今までは、猟を覚えることで必死でしたが、よく見まわしてみると、異常な光景です。
猟友会のベストを見て、農家のお婆さんが話しかけてきました。
「これからシカを獲るんかい。たくさん獲ってよ」
防護柵で囲われた風景が気になり、状況を聞いてみると、折角育てた野菜や米が、全部食べられてしまうこと、防護柵のお陰で被害は減ったが、その維持が大変なこと、若者がいないこと、今度被害にあったら農業を辞めるつもりでいること。内容はかなり深刻なものでした。
狩猟者として何ができるのか、狩猟だけで解決できる問題なのか、様々な疑問が沸き起こってきました。

■コロナ禍で勉強、勉強
コロナ禍となり、テレワークが多くなったお陰で通勤時間が減りました。そこで、ずっと引っ掛かっていた疑問を解決できるのか勉強してみることにしました。調べている中で「鳥獣管理士」なるキーワードに突き当りました。
「野生動物と人間との軋轢問題に取り組む」とあり、「これだ!」と思い、さっそく勉強を開始しました。(参考:https://www.jwms-japan.com/
範囲は広く、生態学(総論)、個体別生態学(各論)、関連法規、人獣共通感染症(コロナもそうですね)、里山学、野生動物の捕獲・保護・防護の方法、野生動物がもたらす諸問題などなど、何年かぶりに学生に戻った気分でした。
コツコツ勉強を重ね、試験を受け、鳥獣管理士の資格認定を受けることができました。国内では私を含め579名しかいません。責任重大です。

■開発者に立ち返る
鳥獣管理士として、少し行政との関りも出てきました。座学で学んだことよりも、更に事態が深刻で広範囲であることも分かってきました。
野生動物の被害といっても、実は人間の側の勝手な構造変更に原因があることも見えてきました。都市部中心、消費中心の社会構造になり、里山から人が消滅し、或いは高齢化や過疎化のために、野生動物の生息域が広がり、その生息域拡大の速度に里山保全の動きが追い付かない状態です。
SDGsの取り組みや、生物多様性の維持、30by30の目標など、国際的な枠組みの中で行政や企業も必死に取り組んでいますが、まだまだ先が見通せない状況が続いています。
「クライアントが『里山』だとして、開発者としてどんなアプローチができるだろうか」
高齢化で人がいないのであれば、システムでの代替の可能性はないのだろうかと、少し考え始めた昨今です。開発者としての意地ですね。




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